恋文
私には2つ離れた姉がいる。
姉は博識でいて年齢にそぐわず大人びているせいもあってか交友関係が広い。
いろんな意味で広い。
漫画に出てきそうな、強烈なキャラクター性を持つ友人が多い。
普通に生きてきて周りにそんな人、何人も集まるか?と思わせられるほどである。
姉の友達の1人でアスちゃんという子がいる。
通称もっちゃん。
このもっちゃんは熱狂的なジャニーズファンである。
とあるジャニーズグループの全国ライヴがあれば、全国を飛び回る。
時期的に他の好きなグループと重なれば日程を何とか調整して
それはそれは過密なスケジュールの中に身を置くそうだ。
それでいて大学の単位はきっちりと取り
レポートの提出遅れやテスト勉強忘れは一切なかったというのだから
彼女はきっと違う星の生まれなのだと私は思う。
姉は今、社会人2年目に入っていて、もちろんもっちゃんもそうである。
彼女は観光系の職に就き、日々ガイドさんをこなしている。
そんなもっちゃんは乙女思考の持ち主で
その矛先はほぼ彼女の好きなジャニーズグループに向いているのだが
時たま現実世界の男性に飛び火する。
もっちゃんは最近ある人を好きになってしまった。
大学時代を共に過ごした同年代で、姉も面識がある男性である。
先ほども言ったようにもっちゃんは乙女思考の持ち主である。
彼女はどうやったら好きな相手に
自分のこの素直な気持ちを伝えられるか考えた。
そしてその結果
愛の告白を伝えるお手紙を書いた。
もっちゃんは本当に一生懸命、純粋な気持ちで書いた。
気持ちを伝えるには言葉で伝えられないならせめて文字。
魂が宿るとも言われてる文字が一番温かみがあって愛が伝わるから。
そうもっちゃんは考えたのだ。
後にこれは間違いであったことが分かるのだが
乙女思考なもっちゃんは
「メールとか電話じゃなくて手紙っていうのがオツだわー」
という方向に思考はシフトしていた為
間違いという考えは少しも浮かばなかった。
手紙の一件を知らなかった姉はしばらくしてから
「あ、ねー!もち(もっちゃんの愛称)!例の彼どーなったの?」
とメールで聞いてみた所
LINEに「ぶっ殺す」「許さない」「呪ってやる」といった
彼への気持ちのスペルが連なった。
「もっちゃん、、乙女だからさ・・・」
と言った姉の微笑みの奥に一片の恐怖が潜んでいたのを私は見た気がした。
スペルが一通り落ち着いた後に、姉はもっちゃんに詳しく事情を聞いてみた。
ここで姉はやっともっちゃんが彼に手紙を書いた事を知る。
すると、どうやら手紙を渡した直後から
もっちゃんの想い人からの連絡が一切来なくなったそうなのだ。
というかむしろ応答さえもない。
もっちゃんはそれでもしばらくの間、耐えていた。
「きっと忙しいんだ」
「携帯に何か不良があって修理に出してるのかも」
「ってか携帯を見てない可能性もあるし」
「体調崩しちゃってるのかも」
とか、色々考えて耐えていた。
しかしある日
我慢の限界が来た。
姉曰く
姉はもっちゃんに
携帯を木っ端微塵にした訳を聞きたかったそうなのだが
淡々とこの話を聞かせてくれたもっちゃんに対して
「これ以上の事もこれ以下の事もないんだな」
と、悟ったそうだ。
もっちゃんはその後、自分で携帯を修理に持ち込み
「線路で落として電車に轢かれた」
と店員さんに言って新しい携帯に変えてデータも修復したらしい。
「手紙は?渡したの?」
と姉が聞くと
「まだ渡せてない、今だに応答なしだもん」
と言ってもっちゃんはその手紙の内容を姉に見せてくれた。
「お手紙で愛を伝えてから」
「メールも電話もしてくれなくなっちゃって」
「それはつまり”そういう事”だよね?」
この言葉の意味が
「振られた」という一般的な意味ならば一安心だが
姉の携帯がスペルで埋め尽くされた
あの時のあの気持ちが彼に向いているとしたら
もっちゃんの想い人の現状が心配である。
姉からは一応
「追いかけすぎは良くないと思うよ」
と伝えたそうだ。
「うん、熱くなりすぎたかも、手紙とか重かったのかもね」
と、もっちゃんは少し悲しそうな顔で微笑んで見せたそうだ。
そんなこんなで1年近く時間が経った。
今も、もっちゃんは彼のことを想い続けている。
未だに彼から返信はない。
もっちゃんは新しくなった携帯をかなり気に入っている。
時間が空いて、彼のことや自分の事などを見つめ直したそうで
「手紙書かなかったらまだイケたかもなー」
と、もっちゃんは話したそうだ。
いつか手紙も渡せたらいいな、と冗談交じりにさっぱりした感じで言うもっちゃんは
あの時ぶっ壊した携帯の代わりにやって来た
今の新しい携帯でジャニーズの動画を見ながら半身浴をするのが
今のマイブームだそうだ。
今でも私は
もっちゃんが彼宛に書いた
愛の手紙の内容が気になって仕方ない。